令和5年3月21日(火)、次の三冊を読み終えた。いずれも再読である。
1.樋口毅宏著/タモリ論(新潮社、2013年)
2.エドワード・ルトワック著、奥山真司訳/中国4.0 暴発する中華帝国(文藝春秋、2016年)
3.加藤博子著/五感の哲学 人生を豊かに生き切るために(ベストセラーズ、2016年)
〈感想、メモ〉
1.樋口毅宏著/タモリ論(新潮社、2013年)
一度目はタモリのエピソード集として楽しく読んだ。この書籍はタモリ論だけでなく、ビートたけしと明石家さんまについての論も収められている。そして、そこでなされている考察は芸のスタイルについてのものや、仕事とプライベートとの距離についてのものなどであり、興味深い。たけしの映画製作についての考察、「笑い」を仕事にすることに自覚的なさんま像などである。
2.エドワード・ルトワック著、奥山真司訳/中国4.0 暴発する中華帝国(文藝春秋、2016年)
ルトワックが来日した時の訳者によるインタビューがもととなっている書籍であるとのこと。
著者ルトワックはチャイナの刊行当時までの対外政策を三つの時期に区分し、評価する。その上で、刊行の時期から先の対外政策――4.0の提言も行う。「パラドックス」が重要となる著者ルトワックの理論が根底にあるためか、それはチャイナに行うことはできないだろうが、と前置きしたうえで、九段線を捨てよ、などが提言されるのである。
今回再読して印象的だったのは、キッシンジャーのチャイナへの影響について書かれた部分である。各国の反発を受けてチャイナ2.0からチャイナ3.0へと転換する際にヘンリー・キッシンジャーがG2という考え方を提示した(この際にチャイナ側がこのアイデアを誤解した、とも著者は語る)、という部分を面白いと思った。ルトワックの冷淡とも思えるこのアイデア及びキッシンジャーに関するコメントも興味深い。
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クラウゼヴィッツからだけでなく、孫子からの影響もルトワックは受けているということを訳者は第6章において解説している。
著者ルトワックは1942年にルーマニアのユダヤ系の家庭に生まれる。1975年にジョンズ・ホプキンズ大学で博士号を取る。戦略家、歴史家、経済学者、国防アドバイザー。
3.加藤博子著/五感の哲学 人生を豊かに生き切るために(ベストセラーズ、2016年)
味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚の五つの感覚一つ一つについて考えてゆく書籍。特に人が年齢を重ねることとそれら感覚とのかかわりについて考察が行われる。副題の「人生を豊かに生き切るために」という目的意識のもとに思考を進める、その思考の過程が語られる本である。
再読であるが、今回は味覚と触覚、聴覚の章を興味深く読んだ。様々な哲学者の論、例えばミシェル・セールの触覚に関する論やアリストテレスの味覚についての論などが紹介される。
先日読んだ『本音のコラム』でもその街中の騒音との対決場面が紹介されていた哲学者中島義道はこの『五感の哲学』でも聴覚の章で触れられていて、印象に残る。
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また、紫式部やサン=テグジュペリの文学からも五感に関する内容を持った場面が紹介される。『源氏物語』からは「梅枝」の一場面が挙げられる。各人の調合した香を競うというシーン。円地文子の訳による『源氏物語』において橘の庭の場面が印象的だった花散里も登場する。
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そのほか、茶道について書かれた「茶道の心」(「第一章 味覚」の中の節)も記憶に残る。節のはじめに、著者は、茶道を「(以下引用)人とのかけがえのない出会いの場の意味、会食のもつコミュニケーション性を最高度に抽象化して完成した文化のひとつ(陰陽終わり)」と位置づける。この節では、岡倉天心と千利休について語られている。節の最後に、著者は、天心が『茶の本』を書いたときの心情を推察し、以下のように書いている。「(以下引用)穏やかな技芸としてのお茶、いかなる状況においても落ち着いて向かい合うことのできる文化は、言葉も宗教も習俗もまったく異なる相手と平安に同席することを可能にします。しかしそれは近代化の後に西洋と接触した際には、脆くも崩れてしまいました。その崩壊を天心は悼んで、『茶の本』を世界に向けて書いたのです。(引用終わり)」ここで述べられている「崩壊」はどのような具体的な事象を指しているのだろうか、という興味がわいた。
〈参考図書〉
中島梓著/本音のコラム(ボイジャー・プレス、2017年)
グラハム・アリソン他/リー・クアンユー、世界を語る(サンマーク出版、2013年)
(『中国4.0』と『五感の哲学』はkindle版をiPhoneのVoiceOver機能で聴いた。)
(敬称略)
(『タモリ論』はサピエ図書館の点字データで読みました。点訳ボランティアの皆様と関係者の方々に感謝申し上げます。)
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